プロ用ヘッドセットを改造する(DavidClark H3332)

面白いヘッドセットを入手した(中古品)。

手に入れた理由は、単に「カッコいい」と思ったからだ。

なんとなく見たことある方も多いだろう。*パイロットさんが着用しているアレです。

DavidClark(Model H3332)

特徴的なグリーンの色から「グリーンヘッドセット」の愛称で呼ばれている(らしい)。ググっていろいろ調べた中でウィキペディアの説明で知った。特にこの種のマニアではなく、私自身もなんとなく見たことある程度の知識だったので、会社の歴史等について、ご興味の方は以下リンクから見てもらいたい。

ja.wikipedia.org

さて、今回入手した型式H3332はグランドスタッフ用だ。特徴的な色と形状からパッと見違いはわからないが、イヤーカップが薄めで全体的にスリム。金属剥き出しのマイクフレームや、同じく金属のマイクON-OFFスイッチ…こういう機能重視のガチっぽさが個人的にはカッコいいと思っている。DavidClark社のヘッドセットの中ではスリムに見えたコイツだが、さすが?はプロ用…重量測るとイヤーパッドの失われた状態で400gを超えている。

DavidClark(Model H3332)の重量

軽く分解し、そのまま使えるか?を確認した。ドライバーユニットに直接繋げ音出ししたが、音質は中音特化型で、音楽や動画を楽しむものではなかった。あくまで音声を確実に、正確に聞き取るための性能なのだろう。インピーダンスは300Ω(静的ノイズ対策と思われ)と高く、PCやスマホ等で鳴らすには不十分。アンプが必須だろう。また、端子は一般的なステレオ端子ではないので改造が必要だ。

搭載されていたドライバーユニット

300Ωのハイインピーダンス仕様

以上がノーマル状態だが、元々改造前提で入手していたので音の期待なかった。ここから好みの仕様に改造していく。目指すのはPCやスマホでも使えるヘッドセットで、やはり「音がいい」のは当然だ。カッコいい、音がいい…そんな理想のヘッドセットを作り上げていく。

 

プロ用ヘッドセットを改造する

理想のヘッドセット作りにおいて、ドライバーユニットの交換は必須と判断した。そこでヘッドセットとして一般的で、実績もあって、音も良くて、安く、入手しやすいものを移植元とし探したところ、TurtleBeach Recon500がヒットしたので早速入手した。

TurtleBeach Recon500

これはゲーミングヘッドセットだ。ゲームをド迫力で楽しめるメリハリある音質、またゲームプレイにおいて大切な細かい音の分解能、解像度、指向性、会話、また長時間の装着に耐えられる着け心地や、その音質にも十分配慮された設計がされている。そこそこ歴史もあり、実績もあり、またそのデザイン性や特殊性から流行りもある。つまり市場に大量に流通することから、中古市場で安く手に入れられるのだ。それは魅力だったりする。

 

さて、入手したRECON500だが、数ある中でこのモデルを選択した理由は、搭載されるドライバーユニットが目的だ。こいつのドライバーは 60mm口径、しかもコアキシャル2wayという大変珍しい構造だ。60mm口径の低音の迫力は、かつてエリアル7というDJ用ヘッドホンで体験していた。だから、あの迫力をまた味わいたい!と、大口径モデルで探した事も理由である。

 

作業の話に戻る。

これは移植元なので、もったいない心理が芽生える前にさっさと分解した。

取り出したユニット

取り出したRECON500のドライバーユニット…というかAssy。 チャンバー部分に木材を練り込んでいい音…の英語説明あって残したが…かなり大きい。

取り出したAssy

移植先であるDavidClark H3332に、切り出した60mmドライバーAssyを仮合わせしてみた。結果はご覧の通りで…物理的に無理だった。

仮合わせしてみる

RECON500ご自慢の木材チャンバーだったが…大き過ぎるので廃棄することにした。

Assyを分解する

木材薫るいい匂いのカバー外すと…お目見えしたのが2wayドライバー。なるほど、ドーナツ状の低域ユニットの真ん中に、小型のダイナミック型ドライバー…高域ユニット(ツイーター)として備わっている。低域ユニットにはダンピング調整用の不織布が貼られているが、ツイーターはなにもない。もうひとつ気になるのは低域・高域ユニットが、狭いチャンバー内でおなじ空気を吸排気してたってことか。空気室を分けずに影響ないのか?

コアキシャルユニットの背面

これは気になったので、悪影響ありそうなツイーター空気室は分けることにした。サイズ的にヨーグルトドリンクのキャップがピッタリだったので、それを利用、機密性は粘土パテで確保した。

空気室を分ける

使ったパテとキャップ

ドライバーユニットを極限小さく切り出す。そして移植先のH3332チャンバーに、ドライバーユニットを軽く合わせ試聴した。すると 高音は明るく、低音はほとんど聞こえない超重低音に変化したようだ。鼓膜持って行かれそうな振動だったので、イヤーパッドは布製でテストした。60mmドライバーおそるべし。

トライバーユニット単体で視聴中

ハウジングに重ねて視聴中

さて、視聴結果は好印象だったので、そのまま組みたかったのだが…チャンバーとなるハウジングを少し削ったぐらいではドライバーユニットが収まらない。ハウジングにある、イヤーパッドをハメる窪みは残したかったので、切削は妥協した。さて、どうするか…

ハウジングを削る

ドライバーユニットを中に納め、斜め配置なら収まるがどうだろうか。半日悩み、高級機が耳穴に向かったセッティングなので、納め方はこれで行こうと決めた。固定も接着で…妥協だが見方によってはそれら仕様が高級機っぽいかも?と、自身に言い聞かせた。

限界まで削ったつもりだが、60mmドライバーが入らない

少し傾斜した状態でなら収まる

さて、気分転換に移植予定の60mmドライバーの重量を測ってみる。すると…片側33gの増量。つまり、ヘッドセットの総重量は500g超えることがわかり、気分転換どころか逆にストレスになった。。。

元のドライバーユニット

移植するドライバーユニット

またまた気持ちを切り替えて…ステレオ端子の改造(デタッチャブル化)に取り掛かる。

長いコードは取り回し邪魔なので、保有するヘッドホン全般に採用している改造だ。ただ、今回いじるのはヘッドホンではなくヘッドセット。マイクの入力があるので、4極のステレオジャックが必要となる。部品購入のため少しググったが、手元にいいものがあると気づき、それを流用することにした。以前iPhone用と間違って購入したUSB-C用オーディオ変換ケーブルだ。今使っているiPhoneはLightning端子なので、USB-C用はいらないのである。余談だが近い将来、iPhone端子はUSB-Cに統一されていく。*EU議会でUSB-C義務付けのため。

 

USB-C用オーディオ変換ケーブルは分解し、必要な端子部分を取り出した。

iPhone用に間違って購入したUSB-C用のステレオ変換ケーブル

USB-C用のステレオ変換ケーブル

USB-C用のステレオ変換ケーブル、分解し、中の端子を取り出す

分解した端子部分を、もともとヘッドセットのケーブル差し込み口にあったラバー(ケーブルグロメット)に刺してみた。すると…多少キツいが入っていく!これは使える。

試しに挿してみるとピッタリだった

元のゴム(ケーブルグロメット)を再利用した

多少出張りを残しゴムをカット。切断面をヤスリで整え完成した。

完成

続いて、マイク改造に取り掛かる。

まだ分解していないが、ググって調べるとインピーダンス150Ωらしく、このままでは使えなさそうだった。面倒だがRECON500のマイクを移植することにした。

マイク 上:H3332 下:RECON500

RECON500のマイクはラバー部分を剥いた。

内蔵されていた部品 上:H3332(ハウジング内) 下:RECON500マイクAssy

移植に際しテスターで調べた。ハンダ剥がしたり削ったりで面倒だ。

*自分用なので質問されても答えられません。

配線図

 

H3332のマイク。中身は要交換だが、見た目は変更したくない。だが、ガッチリ接着(溶着?)されていて、殻割りは無理だった。諦めリューターで削り出し。

マイクを分解

削り出した

中身が剥き出しになったところで、元々内蔵された部品類を全摘し、Recon500の部品を完全移植。

Recon500の部品を移植したマイク

蓋を閉じて接着

なお、マイクの風避けはウチの猫ちゃんオモチャ(猫じゃらし)から拝借した。

マイクの風よけ

材料は猫じゃらしから拝借した

そして仮組みする。この状態でいろんな音源ためして調整してを繰り返す。

低音殺すといい感じだが…60mmドライバのメリット無い…どーするか。

仮組み付け

好みの音作りで苦労する…

好みの音を探った。試聴といっても数分とかではなく丸一日で、使い続けないと気づかないことも多い。先ず気になったのがツイーターで…同じ空気室だとウーハーの影響受けると分離したが、エージングで馴染んだらキャンキャン本領発揮し耳に刺さるようになった。外して先ず様子見する。次なる手立ては不織布(音響抵抗)か?と考え巡らす。

高音ユニットの空気室(キャップ)は外した

ようやっと全体がバランスしたところでエンクロージャ密閉を試す。ドライバーユニットをホットボンドで固定し、空いた隙間を気密パッキンで埋める…これで試聴。うまくいけば完成なのだが…やはり音が気に入らない。こういう音質は10万円以下のヘッドホンでありそうなのだが、あっても外れの部類、3万以下ならフツー…いや、ならやっぱりハズレか。なにか違和感ある音だ。もちろんドライバーユニットを介しての音だから自然な訳ないのだけど、何聞いても疑似的に感じてしまうのだ。

エンクロージャ密閉

気密パッキンを利用

疑似的な音も問題だが、低音も出なくなってしまった。この状態では「これが60mmドライバの音だ」と言っても誰も信じないだろう。低音は振動量なので、おそらく閉じたチャンバーのせいで動かないのだろう。そこで振動板を動かすためのダクトを試した。これはうまく機能すことがわかった。

低音増強用のダクトを試す

ダクトの効果確認が取れたところで、音が気に入らないドライバーユニットを一旦外す。

再び取り外す

音が悪いのは汚れかもしれない、そう思い、軽く清掃するつもりで不織布やメッシュを剥がした。そういえばこの不織布は減衰調整用、せっかくなので外した効果も試しておくとする。

清掃のため制振剤を外す

振動板側のフィルターも外す

減衰調整を試す。一つ一つ、空気穴を塞ぎながら音の変化や好みの音を探るのだが…あれ?変化していない(気がする)。そこでRecon500の仕様についてググってみると、このドライバは周波数帯域20~20,000Hzとある。60mmの大口径ドライバなのに、人の可聴域とぴたり符合する低域セッティング??ちょっと嘘くさい音と、人の息遣いや咀嚼音みたいな不快音が目立つのは、ゲーミングヘッドセットゆえか?高域・低域のドライバー単体で試すと、高域は良いのに、どうも低域の量感とか音に違和感がある。

低音側ユニットのみで駆動テスト中

そこで、思い切って低域のクロスオーバーを無くてみた。低域単体をフルレンジとして試してみると、先ほどまでの違和感が嘘みたいに無くなった。

低音側ユニットのクロスオーバーを解除

好みの音なので低域クロスオーバー廃止(除去→スルーハンダ)した。そしてコアキシャルユニットでの音出しテスト、減衰調整…エンクロージャ(ガムテープの芯を蓋で密閉)の効果確認、バスダクトの効果確認をする…地道な作業の繰り返しだ。

テスト中

ガムテープの芯をエンクロージャに見立てたテストでは、ツイーターの空気室を分離した方が良かった。なのでまた復活させた(のち失敗とわかる)。低域ユニットは不織布無しが好印象だった。

またキャップで高音側空気室分離

領域展開…背面に貼られたのダンピング調整用の不織布は、全く無いほうが可聴域外の重低音で効果あるようだ。不織布あり状態で超重低音を再生すると、ガサついた音が混じって気に入らなかった。だが不織布を剥がすと…ガサつかない。なので全部剥がすことにした。だが、このままではゴミの侵入も許すのでメッシュを張った。これがまた地味に面倒だった。

低域ユニットの仕上げ(不織布の除去→メッシュ追加)

完成したドライバユニット組み付け。

数日調整を繰り返し苦労して手に入れた音。それを60mm口径を付けるため、色々自分に言い訳して思いついたレイアウトで仕上げるのは気に入らない。なので、ハウジングを再採寸し、ドライバーユニットをピタリ取り付けられないか模索してみた。

ドライバユニット組み付け。イヤーパッドで隠すことは可能だが気に入らない。

再採寸の様子。外壁は62.54mm

再採寸の様子。内寸は53.90mm

ドライバユニット60.38mm

採寸の結果は以下の通りであった。

 

・ハウジング外寸:62.54mm

・ハウジング内寸:内寸は53.90mm

・ドライバーユニット外径:60.38mm

 

この状態でハウジング内寸を拡大した場合、ドライバーユニットを1mmの薄壁で保持することになる。悩んだが、周囲のプラスチック製品を眺めると1mm厚はザラにある。ここは自分の腕を信じ、慎重に削り込んでいくことにした。音質調整の数日の努力を無駄にしたくはない。

また、ハウジング下側にドリルで穴を開けた。これは試聴テストでも効果確認ができた低音ブースト用のバスダクトだ。

覚悟を決め、ハウジングをさらに削り込んでいく

少しづつ削っては測り…時間は掛かったが、加工は無事成功した。そしてドライバユニットを取り付けて、試聴テストを繰り返す。イヤーパッドの素材の違い、音響抵抗…そしてエンクロージャ内吸音で調整した。ドライバーユニット表側で一部を塞ぐ実験もした。ゾネホン(ウルトラゾーン)ではドライバユニットが、ハウジング中心からオフセットしたモデルもあるし、SONYのMDR-MA900で採用された、アコースティックバスレンズのように、音を集約する機能などに興味を持ったからだ。実験で音の違いは明確だったが、どれも期待と違ったため不採用とした。

中央と上方を閉じた実験、ゾネホンっぽいレイアウト

中央と外周をぐるり、耳穴に音を集中させる、SONY的なレいアウト

刺さる高音対策で中央のみ塞ぐ実験

刺さる高音対策で、中心部に壁を作って分散させる効果は限定的だった。結局、高音ユニット裏側に空気室(キャップ)を設けると、音がヤンチャ過ぎるのでキャップは外すこととした。これでも多少刺さる高音あるが、吸音材で調整することにした。吸音材は高域を良く吸い、低域は残る。その効果を車の社外マフラーで経験された方も多かろう。なお吸音には、車の場合グラスウールが多く使われるが、ヘッドホンで耐熱性は不要なので、軽くて絶縁性の高いPET素材を使った。静電気の影響あるかもしれないが、その気づきに中長期的な観測が必要となるため、それは頭の片隅に留め、今後の課題とする。

刺さる高音対策で詰め込んだPET吸音材。効果は高く、入れ過ぎると音量も落ち過ぎてしまう

最終調整は、PET吸音材の増減で好みの音に調整した。これで組み立て完成となる訳だが…ここまで2週間以上かかると思わなかった。

組み立て中。ドライバユニットの固定には接着剤を使った。

そして接着剤の硬化を待ち数日後、細かい部品の組み付けを終えてた。

 

完成

気になる音質は伸びある高音と迫力の低音で満足いくもの。とはいえ、音楽鑑賞にはもっとすばらしいヘッドホンがあるので、今回弄ったヘッドホン…じゃくヘッドセットは、Youtubeなど動画鑑賞で使っていこうと思う。あと勇気があればファッションアイテムか。。。

 

改造箇所

①ドライバー交換

②マイク交換

イヤーパッド交換

④デタッチャブルケーブル化

⑤バスポート追加

iPadに繋げた図。モバイル機器でも十分な音量とど迫力を楽しめる。

 

おまけ(ワイヤレス化)

カールケーブルを愛用しているため、その収納がヘッドセット上で完結すればよいなあと思っていた。そこでBluetoothレシーバーを追加し、そのジャックに端子を差し込めば、カールケーブルがいい感じに収納されると気がついた。おまけにワイヤレスでも楽しめる。ただし、取り付けたBluetoothレシーバーは3極で、マイクには対応していない。通信もワイヤレスで、かつヘッドセットのマイクでやりたいのであれば、バイク用のBluetoothインカムを使えばよいだろう。あとBluetooth内蔵化は、私は絶対やらないことにしている。おそらく高確率で電波法に引っかかると思っている。

完成したヘッドセットにBluetoothレシーバーを追加した

見た目や利便性でカールコードを愛用、それをBluetoothレシーバーに引っ掛けている

bluetoothレシーバーはヘッドバンドに取り付けた。内蔵は物理的には可能だし簡単だろう…だが絶対にやらない方がいい→電波法

以上